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カキチラシ

「サカサマ」ブログサイト内、書き散らしたもの置き場。

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01/05

Wed

2011

空気漫画ならん空気短文。なんじゃそら。

「においも残らない部屋の中」
 

 鏡餅の上にのせていた、葉っぱつきのみかん。
 気がついたら、腐っていた。
 いいや、ちょっと、茶色になって痛み始めてる。でも、きっと、これの中身は腐ってる。
「どうした、」
 珈琲を片手に、君が顔を出す。
「珈琲くさい」
「しゃあねえだろ、珈琲だもんよ、」
「みかん、」
 指差し、君を見る。少し僕を見て、君は立ったまま、行儀悪く珈琲をすする。しかも、音を立てて。
「食っちまえば?」
「鏡餅が、裸になる」
「良いじゃねえか。裸」
 ずず。
 珈琲をすする音。それから、少し、沈黙。
 君のマグカップからは黒い世界が消えて、君の左手にある僕のマグカップからは、湯気が消えた。
「ほれ、」
「わ、」
 手の中に、生温いカップ。僕の、珈琲。ミルクと砂糖が混ざっていて、見た目は悪い。でも、甘い。
「ん、まだいけるぜ、これ。」
 オレンジの皮のまま、一口。
 いくら小さいみかんだからって、それはないと思う。一瞬だ。一瞬で、君の中へと消えてった。
「ひどい、」
「ひどくねえよ、」
 そう言って、君は残った葉っぱを、鏡餅の上へそっと置く。
「・・・みすぼらしい」
「そうかあ?意外に、いけてんぜ?」
 ずず。
 一気にマグカップの中身を飲み干した。

 
20110104


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09/16

Thu

2010

水精(みなもり)君(仮) その6

 
その6



 蛇口にホースをつけて、庭の水遣りをする。天気が良い日には虹が出来るので、いつもその下をくぐろうと果敢に挑戦するが、自分が手を離せばホースはぐにゃんと地に落ちるから、残念ながら今まで一度も成功した事はない。一日の半分以上を日課と称して離れに引きこもっているこの家の主人は、時折、唐紙の隙間から眺めるだけで、虹の橋を制する大業を、手伝ってくれたためしはない。
 中原の家は便利だ。何せ、庭に面した壁に蛇口がついている。外に蛇口だ。水が飲み放題じゃないか。誰でも飲み放題だ。だから中原の家は好きだ。そういう太っ腹な中原は、庭を蛇行する小川の水を荒らす事は許さない。しかし、一歩でも外に出たとなれば話は別だ。中原は、家の敷地をぐるりと囲む、竹の垣根を越えた外側には興味はないらしく、垣根のすぐ傍で小川に西瓜を冷やしていても何の文句も言わない。ただ、中原の家の、竹の結界内にある川には、とてつもない独占欲を持っていて、半歩でも竹の陰に入った場所で胡瓜を冷やせば、どこから見ているのかすぐにやってきて、目が悪いからと本人は言うが、ぐい、とあの分厚い硝子眼鏡が乗った線香臭い顔を近付け、「やっても良いんだな?」等と相手を脅す。そんなけちな性分も持っている。
 だから、誰も中原の小川には手を出さない。おかげで、夏の暑い日でも、自分は竹の影の下、よく冷えた西瓜を、ゆっくりと落ち着いて堪能出来ている。中原には感謝せねばなるまい。同じ水であるというのに、内と外とでこうも扱いが変わる意味は未だによく分らないが、中原にその理由を尋ねても余計に分らなくなるだけであろうから、自分は冷たい西瓜や胡瓜を誰にも邪魔されずに食べられたらそれで気がすむので、どうでも良い事として処理している。それにしても、この前は危なかった。例の如く(目が悪く近くで見なければよく分らない、と至近距離でものを見る癖のある亘だが、あれはきっとわざとだろうと思う)、うっかり竹やぶの中の水に、茄子の入った籠を浸した途端、どこからかやってきた亘は、ぐい、と顔を寄せ、呟いた。
「やっても良いんだな?」
 黙って籠を引き揚げて、そのまま土下座し許しを請えば、奴は住処へ帰って行った。籠の中の茄子の数が減っていても、文句は言わない。
「やっても良いんだな?」は、ある種の呪詛だ。何をどうするのかそれは恐らく本人の気まぐれでその都度、決められるのだろうが、硝子に隔てられた瞳と見詰め合うのは毎度、腹の底が冷える。あの声と、あの硝子と、あの一瞬に込められる何かは、中原が持つ、欲の正体に違いない。その欲が引き寄せる呪いは、形を伴わない畏れで持って、中原の水を、守り続けている。
「無粋な奴だ、」
 だから蛇口の水を、今日もひねる。
 今日もまた、良い天気だ。快晴だ。
 なんだか今日は、虹の橋を制する事が出来るような予感がした。
 蛇口の下でとぐろを巻いている、青い蛇を持ち上げる。蛇口に青いホースがついているから、それを青大将と名づけたものだが、この間、うっかり、本物の青大将をひっつかみそれに気がつかず蛇口に手を掛けた時はさすがに参った。出ると思っていたホース口からは赤い舌がちろちろ飛び出て、出ると思わなかった口から水が出て、足元にはまるで粗相をした後のような水溜りが出来ていた。おっといけない、と手を離す事も忘れて、本来の青大将の首ねっこを引っつかんだら、今度は自分の顔めがけて放水だ。両手に花、ならん両手に青大将を掴んだ自分を、唐紙の隙間から覗いた中原は、げ、と嫌そうな声を咽喉の奥で発し、庭に捨てるなよ、とだけ残してぴったりと唐紙の閉めてしまった。本物の青大将は、家へ帰るついでに、外の小川に捨てたから、文句はないだろう。
「さて、今日は虹を渡る。」
 見ていろ、と注意深く「青大将」の口をぐい、と押す。平べったい口からは、薄っぺらい水が出て、よしよし、と機嫌良く青大将の首を仰向ける。そうして少し指先の力をゆるめ、水に勢いを増す。ちか、と頭上で光る太陽は、まだ本調子ではないのか、どうにもゆるい。それでも、ちょっと手首を返せば、水の背は光を反射し、うっすら、虹が浮かび上がった。
「よし、良い感じだ?」
 ぱちん。
 なんだ?
 目を凝らしても、虹には変わりはない。だが、再び。
 ふわん、ぱちん。
 薄い皮膜を持った薄い玉がふわりふわりとどこからか所在なく漂い、虹の橋にぶち当たっては、割れて、消える。ふわん、ぱちん、ふわん、ぱちん。
「むむむむ、」
 シャボン玉が虹の橋に当たる度、僅かに反射は角度を変えて、虹は薄くなっていく。
「誰だ、無粋な・・・!!!」
 ぐる、と背後に気配を感じ、振り返る。そこには大好きな蛇口。そして風呂の窓。開け放たれた窓の、中からふわふわ、石鹸のにおい。獣のにおいが、混じって入るが、間違いない。
「お前が犯人か。」
 ぐい、と窓を睨みつけ、青大将の口を緩める。ぼとぼと。青大将は醜く唾液を垂れながす。重みを持った水は、庭の敷石を派手に濡らした。
「水が飲みたい、」
 風呂がそう言った。
 故に、自分は真っ当に返事をしてやる。
「飲めよ、」
 青大将、ここぞとばかりに噛み付くが良い。
 
 
 
 

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09/15

Wed

2010

水精(みなもり)君(仮) その5



その5


 
 思えばどうして自分は「中原さん」の家の前に倒れていたのだろうか。
適当に目星をつけた、というよりも、残った臭いが酷くなる方へ歩いていけば、自然、風呂場に辿り着けた。小さな風呂場の窓を全開にして、途中、ここへ来るまでにあった扉という扉、窓という窓、外へ通じる道筋はすべて開け放し、とりあえずは湯船の惨状を見る。幸いにして、湯船の中はさっぱりとしていた。どうやら洗い場のみを集中して掃除すれば、ここは何とかなりそうだ。それでも、一応は湯船から壁、手の届く範囲の天井をこすり、蛇口を全開にして、ひたすら洗い流す。この際、石鹸がなくなるとか、水が無駄だとかどうでも良い。
そう、亘は。
亘と名乗ったあの人は、そんな事は気にしない。そんな事よりも、今日の夕刻に、暖かいお湯に気持ち良く浸かれる事の方を重視する性質である気がした。生憎と雑巾が見つからず、自分の手が掃除用具代わりなおかげで、どうにも時間ばかりが過ぎていく。いい加減、指の感覚がなくなってきた。ちょっと手を休めれば、真っ赤になった掌に、心なしか、節々が痛む。本当に何かないか、ともう一度、風呂場や脱衣所を見てみるが、何もない。一体、どこに隠してやがる、と、だんだん腹が立ってくる。ふと、我が身を眺める。
「ああ!」
 やはり、布はよく泡立つ。汚れも良く落ちる。済みの方の黒かびも、幾分か薄くなったようだ。
 ご機嫌で、いまや雑巾と成り果てた包帯を見た。ふくふくと泡を含んだ木綿の細長い生地は、黒ずんでいる。どうしてか涙が出るのは気のせいだと、最後の仕上げに思い切り、壁という壁、床、湯船に余す事無く、水をぶっかけた。ついでに、自分にも頭から水をぶっ掛けたのは、言うまでもない。ちょうど水が欲しかったからいい。さっぱりとした空間に、石鹸の残り香はとても合っている。風の流れに身をすぼめた。ぐ、と縮こまり、大きく伸びをする。気持ちが良い。そうして思ったのは、僅かな渇き。ぴちゃん、と水の、滴る音。湯船の縁を伝う水の道に、天井から落ちてきた雫が後を引く。
「水が飲みたい、」
 そう言った。
 水!
 刹那、目が飛び出るかと思った。開いた風呂場の窓から、水が降って来る。いいや、外からホースで水をぶっかけられている。
 息がつまる。
 鼻に水が入った。痛い。
 確かに自分は水が飲みたかったが、こういう飲み方をよしとする程、飢えてもいない。が、ひたすら施される水の強襲は、留まる所を知らない。何とか目を開けようとも、あまりの勢いにどうにもならない。ただ、声が聞こえた。
「飲めよ、」
 無頓着な声だ。平坦な声だ。一言、浴びせられた声により、一方的に施される水は、何の味もしない。
 誰かも分らぬ相手からの強引な「もてなし」は、こちらが気を失うまで、たった一言のみを落とした世界で、行われ続けた。
 もはや風呂場を配していた気持ちの良い石鹸のにおいは少しもしない。強烈な水のにおいに、世界は閉じていく。
 

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09/15

Wed

2010

水精(みなもり)君(仮) その4


その4



「〇〇、」
 誰かが呼んでいる。
「〇〇くん!」
 太陽に反射した花が、甘い香りをはなつ。そこはとても心地良く、素晴らしい場所だった。風が吹いている。気持ちが安らぎ、とても眠い。
「〇〇さん!」
 身体を丸め、そっと目を閉じる。そして数秒もしない内にまた開き、うつった空の青さにゆっくりと笑む。雲が風にゆられ、太陽は顔を出しては隠し、のんびりとした草原はとても素晴らしい。
 午後のお茶には、さっくりと焼き上げたレモンパイに、酸味に負けないジャスミンのお茶を。それだけでは口の中がきっとごわつくから、ミルクチョコレートを一欠けら。ぽい、と口に放り込めば、次は珈琲が欲しくなるだろう。口の中のカカオが消えてしまう前に、森の喫茶店へ走るのだ。鈴の付いたドアを叩けば、眼鏡をかけたマスターが、面倒そうに顔を出す。長い髪を一本にくくった今日のリボンは、何色だろう。手鏡を片手に、器用に一本の手でリボンを結ぶ後姿は、みんなの憧れだ。膝に猫を乗せ、時には邪魔だと蹴り飛ばし、美味い珈琲を入れる。長い指を持つ右手は一本足りなくて、その代わり、左手に一本、多くあるのがマスターらしい。気持ち悪いと人は言うけれど、珈琲の味に変わりはない。マスターの珈琲は、いつだって美味しくて、添えられた指には宝石が埋まっている。
 宝物だね、と笑えば、食えなくなったら高く売るよと眼鏡の下で呟く口。笑いもしないマスターの、笑えない冗談はいつだって本気か嘘か分らない。
 酸味のきいた豆を削る時、マスターは眉をひそめていつも問う。
「お前は気のふれた豆だな畜生。」
 苦味のある豆を削る時、マスターは目を細めていつも問う。
「お前はつまらない意地を張るなよくそ豆が。」
 深みのつまった豆を削る時、マスターは耳を動かしいつも問う。
「お前は食えない毒をみせるんじゃねえよごくつぶし。」
 マスターの入れる珈琲は、いつも美味い。
「〇〇!」
 呼び声に、また目を閉じる。ああ、聞こえる。聞こえるよ。
 身体に流れる音が、大地に流れる音が、風に流れる音が、音、音、音の声。
「おとのうた」
 その声で呼ばないで。それとも誰を呼んでるの。
 頬をなぜる風が、気持ち良い。瞑っていても分る、太陽の香り。鼻腔をくすぐる花の色。ここは楽園だ、そう、楽園。ぼくらの楽園。
 ちらり、と光りを放つ一本の道。瞼の裏には、閃光の道が続いている。白い道は、どこもかしこも白くて細い。そこを歩けば、きっと見つかる、辿りつく。
「〇〇、!!」
 ああ、もう、うるさいな。
 気持ちの良い草原は、次に目を開けば黄昏色。麦畑に浮かぶ、麦藁帽子。リボンの色は、何色かしら。
 マスターの珈琲が飲みたくなった。
 水が、欲しい。
 
 

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09/15

Wed

2010

水精(みなもり)君(仮) その3



その3 


 身体がどっぷり、生温い水の中に浸されているようような不快感で目が醒めた。はっきりいって気持ちの良いものではない。なるほど、じっとりと皮膚という皮膚、毛穴という毛穴から汗が噴出している。もっとも、生臭いごみの様な汗ではなく、さっぱりとした感はあったが、不快である事には変わりはなかった。
「どっこいしょ、」
 すぐ傍から聞こえた間抜けた掛け声に、びくりと身体が過剰反応する。そろり、ゆっくりとそちらを見れば、人が一人、首に手ぬぐいをひっかけ、見るからに暑そうに着物の裾を捲し上げて縁側に寝転んでいた。ちらりと見えた横顔は、分厚い眼鏡をかけている。
「あっついなあ、これ、間違いなく太陽に殺されるな。それなのに朝から頑張った私は偉いよな、」
 ああ、どうやら自分はこいつに拾われ、世話を受けたらしい。
 気を失う直前の記憶を手繰る。そう、自分はとてつもなく厄介な事を成し遂げて、心身ともにぼろぼろのぐちゃぐちゃのめっためたに疲れ汚れ打ちのめされて、ふらふら意識も半ばに、どことも知れぬ場所を彷徨っていたはずだ。浮浪者を通り越しごみそのもののであったろう自分をこう綺麗にしてくれた理由は不明だが、とりあえずは目前の人物に真っ当な人であるならば礼をつくすべきであろう。
「あの、あー、どこのどなたが存じませんが、世話をおかけ致しました、ありがとうございます。」
「水精の、中原さんちの亘さんだ、」
「はあ、亘さん。自分は、」 
「さてと、大分、予定が狂っちまったが決められた事はしねえとな。」
 その場で伸び上がり、軽く肩をほぐした亘さんは、こちらの事を一切気にかけず、縁側から庭へ降り、敷石を渡って、ちょうどこことは向かい合わせになっている、離れへと向った。庭を流れる小川にかかる、小さな橋を越え、竹藪に包み込まれるような離れは、玄関などなく、戸板代わりの唐紙が入り口と窓とを兼ねているらしい。あの程度で、雨風はしのげるのかしらとか、魔が差したよそ者の好き放題になるんじゃないかとか、ここへ来てからまだ日も経っていない、ましてや見知らぬ赤の他人の家のことであるのに、やけに心配になってしまう。
「あ、」
「はい?」
 濡れ縁に足をかけ、唐紙を開いた亘さんは、そこで偶然思い出したかのように声を上げた。思わず反応して、自分も寝かされていた布団から身を起こし、耳を傾ける。
「その布団、干しとけよ。あと、風呂場、洗っとけよ。あんたのせいで酷い有様だ。それが済んだら廊下も拭いとけ。泥やら何やら、ぬたぬたしてやがる。ああ、玄関先も頼むぜ。ついでに家中、掃除しとけよ、すっきりするぜ。じゃあな。」
 かた、ん。
 用事を言えるだけ言いつけ、さっさと離れに篭った相手に、もはや何の恩も感じない。
「・・・・、ろくでもねえのに、借りを作ってしまった。」
 そのまま疲労に任せ、布団へと逆戻りしたい気分だった。
 しかしこれも性分か、気になった事をそのままには放置できない。確かに汚れた自分を、そう、生ごみ。生ごみを洗った風呂場は想像したくないし、そこへ至るまでの経路も酷いものだろう。仮にも世話になった身だ。正真正銘、身から出た汚れは、あとを残さず綺麗さっぱりにして、立つべきであろう。
「自分はこうも真っ当であったのか。」
 妙な納得をしたのはなぜだろう。
 

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