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カキチラシ

「サカサマ」ブログサイト内、書き散らしたもの置き場。

01/15

Wed

2025

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09/14

Tue

2010

水精(みなもり)君(仮) その2

「水精(みなもり)君(仮)その2」



 これは夢だといっている。
 何が。そう、自分。この自分。
 まず頭から水の中に突っ込まれた。間違いない。水の味がした。次に引き揚げられて、かろうじて息が出来る程度の水位に浸され、ごしごしと身体を洗われた。痛いとか、痛くないとか、そんなものではなかった。皮膚なんてものは、きっとすべてがすりむけてしまっている。酷いことになっていそうだ。なぜなら、心なしか、身体全体がひりひりと痛むのだ。じんじんと染みるような痛みは、どうにも熱を持っているようで、魘された。覚えているのは泡。石鹸の匂い、消えていく、生臭い自分のにおい。獣臭いな、とどこかで声が響いている。それにほんの少し頷き返せば、再び、獣臭い。などと、今度ははっきりとした声が聞こえた。そして、またもや泡。石鹸の匂い、獣臭いと繰り返す声。やがて、ざぶんと頭のてっぺんまで水に押し込まれ、反射的に開いた瞼の外には、きらきらと光る泡、泡、泡。人間の掌が、自分をすくいあげたと思ったところで、今度は完全に意識を手放した。
 これは夢だといっている。
 何が。そう、誰かが。誰かが、そう。
 これは夢だと、言っている。
 これは、夢だと。
 夢なのだと。
 言ってる。
 耳の奥で、しゅわしゅわと泡が爆ぜている。
 流すなら、ちゃんと隅々までやってくれ。
「贅沢なやつめ、」
 不遜な声音と共に、ざぶん。
 水が、水に溶けてしまう。
 ああ、これを夢だと言ってくれ。

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09/14

Tue

2010

水精(みなもり)君(仮) その1

「水精(みなもり)君(仮)」


その1
 


 ちか、と光った何かに、硝子一枚を隔てた視界は一瞬、眩む。今日も暑くなりそうだ。まだ陽が上ったばかりだというのに、早くも額から滴り落ちる汗にげんなりとする。ついで、面倒では有るがいつもの日課をさぼるわけにもいかず、桶の中の水を投げやりに柄杓ですくってはぴしゃり。すくってはぴしゃり。地面に当たった直後に水蒸気となって空中へ上っていくのではないかと思うような照り付け始めた日差しに、やる気はどんどん失われていく。もうこうなったら、柄杓などと優雅な真似をせず、思い切り、桶を振り回し一気に水をまいてしまおうか。そうすれば、少しはましな水溜りの一つでも出来て、長らく振っていない雨でも呼び寄せるかもしれない。今朝も雲ひとつない空を見て、ああ、これは影送りの遊びが出来そうだ、なんて子供じみた発想に、いよいよ今夏の猛暑にやられたか、とどこか他人事のように思った。
「面倒だな、」
 なるべく他所事に気をやって、出来ることならば眼前のそれに意識をまわさない様にしていたが、どうもそれも限界なようだった。
「・・・・、」
 さすがに現実を見てしまったからには、見ていなかった振りは出来ない程度に、真っ当なつもりである。だがしかし。
「これは、見なかった事にしても、決しておかしくはないんじゃなかろうか。ああ、きっとそうだ。そうにきまっている。」
 などと、自問自答を口に出してしまう。少し冷静になれば、そう、ごみだ、昨日、うっかりと門前の掃除をさぼったつけが、今日にまわってきたに過ぎない。そうだ。
「現実からの逃避は、あるべきではない、か。」
 昨晩の残り湯に、改めて湯を足すのも面倒だ。この際、水でも良いだろう。
「どうせ、暑くなる。」
 そうと決まれば、さっさと行動に移してしまうが吉だ。もう半時間もすれば、次の日課の時間がやってくる。
「すぐに終わるようには見えないが、」
 ここまできたら、やるしかあるまいなあ。
 どうでも良い独り言は、あっという間に消えていく。
「日記に書く事が、多くなりそうだ」
 柄にもなく、気弱になった自分は随分と殊勝なものだと思った。

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09/14

Tue

2010

水精(みなもり)君(仮) その0


「水精(みなもり)君(仮)」



その0
 
 
 体中が痒かった。そして、痛い。ごつごつとした背中の感触に、ぐ、と肩を起こしたがすぐに力尽き、そのまま倒れる。ああ、今、自分は道に野垂れ込んでいる。それだけが分った。次に閉じた瞼の下から、白く黄色い光を感じた。ああ、朝か。当然のようにそう思った。そして、次第にはっきりとしてくる感覚。暑い。じわりじわりと地面と接する皮膚の部分から、大気の熱を知った。ぴしゃ。不意に、音を拾う。ぴしゃ、り。耳が、音を聞く。びしゃ。水だ、そう、これは水だ。水のにおいがする。耳の次は鼻がにおいを知った。そういえば、咽喉が渇いたなとも思う。ああ、水が飲みたいな。出来れば冷たい、そう、朝一番の、冷たい水。きっと、それは美味しくて、美味しくて。ああ、水が、飲みたい。水が。
 
 

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01/04

Sun

2009

詩。テーマは煙草でお願いします。


「寒空に咲く」
 

 
 冬空に映える、寒月。
 
 冷気に震える、月光。
 
 立ち上る紫煙、誘蛾灯。
 
 甘い匂い、
 
 苦い匂い、
 
 人の匂い、
 
 君の味。
 
 つまむ指先、荒れた肌。
 
 白い吐息と、汚れた肺。
 
 真っ赤な血潮、真っ黒な場所。
 
 空にぽっこり、落とし穴。
 
 震える存在、冬蛍。
 
 ふさわしくひらいた、夜の事。
 

 
20090101

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01/04

Sun

2009

 

 
「空の名前」
 

 
 俺はいつでも正常だ。
 
 僕には名前がある、空が見える、飯が食える、そして歩ける。
 
 そう、僕は今日も正常だ。


 
 
 火照る体を引き上げて、本を読んでいる。火照る体を横にして、目を瞑り、少し眠ろうと思った。

火照る体を揺り起こし、飯を食わねばと口を開く。
 
 噛み締めた飯の味は美味いとか美味くないとか、そんなものではなくて、味そのものがダイレクトに舌へ

の刺激となり、腹を埋め、食後はぽっこり飛び出た胃が重い。
 
 僕は大丈夫。問題ない。空から地面を眺める夢を見た。車に乗っていて、坂道を猛スピードで下り降りた

拍子に浮き上がったのだ。そうして、空から町を眺めた。かつて、住んでいたらしい町だ。僕には記憶が無い。

そうこうしているうちに、場面はかつて住んでいたという学生時代の寮のような場所へと切り替わる。

下宿先は記憶のものよりも古く、寂れて汚れていて、表参道を二本も三本も離れた辻の、一見しただけで

治安のよろしくない、風俗店が引き締める路地裏のようだった。コンクリートのような鉄板の無機質な黒い壁、

土汚れのついた倉庫のような黒い小さな扉。そこで僕は、なんて住みたくない場所なのだ、と少しでも綺麗な

部屋の様子は無いのかと外から中を伺う。その時、二階を見上げてふと思った。

「ああ、地下に住んでいたのか。」

僕は僕の住処を見つけた。

すると次々に住人がやってきて僕を囲み、おかえり、とかどうしたんだとか帰ってきやがったとか、歓迎なのか

陰口なのかよくわからない、とにかくたくさんの種類の言葉を僕は受け取った。
 
 僕は再びそこで暮らし始めたようだ。ようだ、というのは気がついたら僕はそこに馴染んでいたからであり、

僕の手には住人の誰かからもらったものなのだろうか、大きな柑橘の果実を手にしており、僕は口元も首元も

服も手もたっぷりの果汁でべたべたになっているのも気にせずに、その分厚い皮をむき、白い薄皮をむいて、

そのまま噛り付いていた。すると、僕を遠巻きしている大勢の人間に気づく。ひそりひそりと何かが聞こえる。

ああ、そうか。

「僕は異常者だったのか。」

僕はどうやらそこの連中の気に障る人間らしかった。僕は記憶の無いこととそんな状態の毎日に身を置かれる

ことで不安にいっぱいだったのだが、どうしてかロドリゲス(おそらく友人の名前だろう)からもらったグレープフ

ルーツを人目もはばからずに食べているうち、彼の黒い肌に似合いの黄色いタンクトップを眺めているうちに、

少し雨で湿った靴裏に泥がつくような学校の庭を歩いているうちに、グランドで野球だかラクビーだかを見てい

るうちに、ごくごく当たり前にわかってしまった。空を仰ぐと、真っ青の大空である。車の中で見た、赤系の青で

はなく、青系、むしろ緑系の青。愛すべき、青。そんな青でもない、まっさらの、まっさおの、青空です。
 
 ああ、僕は今日も正常だ。
 
 
 
 
 
20081011
20090104改稿

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