忍者ブログ

カキチラシ

「サカサマ」ブログサイト内、書き散らしたもの置き場。

01/15

Wed

2025

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

09/15

Wed

2010

水精(みなもり)君(仮) その4


その4



「〇〇、」
 誰かが呼んでいる。
「〇〇くん!」
 太陽に反射した花が、甘い香りをはなつ。そこはとても心地良く、素晴らしい場所だった。風が吹いている。気持ちが安らぎ、とても眠い。
「〇〇さん!」
 身体を丸め、そっと目を閉じる。そして数秒もしない内にまた開き、うつった空の青さにゆっくりと笑む。雲が風にゆられ、太陽は顔を出しては隠し、のんびりとした草原はとても素晴らしい。
 午後のお茶には、さっくりと焼き上げたレモンパイに、酸味に負けないジャスミンのお茶を。それだけでは口の中がきっとごわつくから、ミルクチョコレートを一欠けら。ぽい、と口に放り込めば、次は珈琲が欲しくなるだろう。口の中のカカオが消えてしまう前に、森の喫茶店へ走るのだ。鈴の付いたドアを叩けば、眼鏡をかけたマスターが、面倒そうに顔を出す。長い髪を一本にくくった今日のリボンは、何色だろう。手鏡を片手に、器用に一本の手でリボンを結ぶ後姿は、みんなの憧れだ。膝に猫を乗せ、時には邪魔だと蹴り飛ばし、美味い珈琲を入れる。長い指を持つ右手は一本足りなくて、その代わり、左手に一本、多くあるのがマスターらしい。気持ち悪いと人は言うけれど、珈琲の味に変わりはない。マスターの珈琲は、いつだって美味しくて、添えられた指には宝石が埋まっている。
 宝物だね、と笑えば、食えなくなったら高く売るよと眼鏡の下で呟く口。笑いもしないマスターの、笑えない冗談はいつだって本気か嘘か分らない。
 酸味のきいた豆を削る時、マスターは眉をひそめていつも問う。
「お前は気のふれた豆だな畜生。」
 苦味のある豆を削る時、マスターは目を細めていつも問う。
「お前はつまらない意地を張るなよくそ豆が。」
 深みのつまった豆を削る時、マスターは耳を動かしいつも問う。
「お前は食えない毒をみせるんじゃねえよごくつぶし。」
 マスターの入れる珈琲は、いつも美味い。
「〇〇!」
 呼び声に、また目を閉じる。ああ、聞こえる。聞こえるよ。
 身体に流れる音が、大地に流れる音が、風に流れる音が、音、音、音の声。
「おとのうた」
 その声で呼ばないで。それとも誰を呼んでるの。
 頬をなぜる風が、気持ち良い。瞑っていても分る、太陽の香り。鼻腔をくすぐる花の色。ここは楽園だ、そう、楽園。ぼくらの楽園。
 ちらり、と光りを放つ一本の道。瞼の裏には、閃光の道が続いている。白い道は、どこもかしこも白くて細い。そこを歩けば、きっと見つかる、辿りつく。
「〇〇、!!」
 ああ、もう、うるさいな。
 気持ちの良い草原は、次に目を開けば黄昏色。麦畑に浮かぶ、麦藁帽子。リボンの色は、何色かしら。
 マスターの珈琲が飲みたくなった。
 水が、欲しい。
 
 

拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

カレンダー

12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

フリーエリア

最新トラックバック

プロフィール

HN:
班長
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
管理人:たの咲千鶴とか鳥とか班長とか。
傾向:創作小説・二次創作小説
説明:「狗と鳥」の鳥の現在は呟きが主成分の二次・創作ブログです。
連絡先:aoi515@hotmail.com
カキチラシ:http://kakitirasi.blog.shinobi.jp/
リンクフリー/無断転載借用禁止

バーコード

カウンター

アクセス解析

Copyright © カキチラシ : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]