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「サカサマ」ブログサイト内、書き散らしたもの置き場。

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07/17

Thu

2008

日米?ネタその1

 

~本田菊劇場その1~
「孫遊びがしたい、お年頃なんです(吐息)。」




 
 
 
 
 すなわち、私、本田菊はとてもとても遺憾であると。そう、言いたいのです。
「分かりますか、アルフレッド君。」
「分かりません、菊先生。」
「そうですか、独立前からやり直してください」
「さらりと死亡フラグ、立てないで下さい」
「きちんと理解もしていないくせに、フラグ、なんて専門用語を使わないように、不愉快です私。」
「菊先生、僕、恐いです。」
「君が」
「いいえ、君が。」
 だん、といっそ、高らかに音を立ててくれれば良いものを、目前の彼は常と変わらぬ穏やかな、その顔を見慣れたものには無表情ともいえる平静さで、手の中のグラスを丁寧に、それはそれは繊細な動作でコースターの上へと置いた。きっちり、コースターの中心に合わせてくるものだから、本当にこの人は、その脇におかれた酒瓶数本全てをほぼ一人で飲み干した人だろうか、と冷や汗が額に滲む。
 彼が、ここまでの大酒飲みとは知らなかったので、正直、もはや自分がこれからどう行動したら(生きて帰れるのか)良いのか、それ以前にどうなるのか(明日の太陽を拝む事が出来るんだろうか)が皆目検討もつかず、何と言うか、心底、肝が冷え切ってしまい(誰でも良いから、助けてくれないかしら)、酔える余裕など、どこにもありはしない(もうこの際、アーサーでも良いから!!いいや、ロシア野郎だってかまわない!!!)。悲しいかな、現実逃避すら許してはくれない雰囲気が、僕と彼の間には漂い、僕ははっきり言って、別の意味では盛大に酔えそうだなと、遠く、天井の木目を見つめる。
 彼は次々、運ばれてくる酒を、黙々とあけていく。年寄りの一人暮らしですよ、と言っていたこの家で、誰がここまで酒を運んでくるのか分からないけれど(そういう意味では、彼の家はある意味、イギリスの家をしのぐ不気味さがある、口に出しては言えないけれど)
確実に、彼の傍らには空瓶が続々と、増えていっている。
 なぜこうなってしまったのか、思い出すのも億劫だ。今はとにかく、早く時が過ぎていってくれる事ばかりを考えている自分が、不思議でたまらない。どうにも、日本国としてではない、個人的な知人である本田菊、という存在と対峙する時は、調子がくるって仕方ない。こういう時、無駄に彼の事をお爺ちゃんだなあ、と感じてしまうのは、それこそ口が裂けてもいえない事だ(少なくとも、イギリスやフランスに対してはおっさんだな、と思う事はあっても、お爺ちゃんだな、と思った事は一度も無い)。
「アルフレッド君、甘い酒はお嫌いですか。」
 突然の改まった声による呼びかけに、知らずびくりと背筋が伸びて、この前、教えてもらったばかりの正座を崩す事が出来ないでいる足に、激痛が走った。ああ、こういうのを、足がしびれたって言うんだ。足の裏が、ぱんぱんに腫れているような、熱で浮いているような、自分の足ではない変な感覚がする。座布団を敷いてはいるけれど、そんなもの、あってもさして、意味を成さなくなってきている。菊は相変わらずきっちりと、美しい姿勢で正座をしているし、まったく、日本人の足は一体、どうなっているのだろうか。
「お嫌いですか、」
 再度の問いかけに、はっとなって、慌てて答えを吐き出した。
「いいえ、好きです。」
 瞬間、喜色満面、心なしか彼の纏う空気そのものすらが、桃色に変化したような気がした。
「それでは、これなんか、いかがですか。」
 さっきまで遺憾だ何だと言っていた御仁は一転して、爽やかな微笑を浮かべて一本のワインボトルを差し出す。相変わらず頬には朱色一つささないけれど、うん、間違いなく彼は、酔っている。そうして、酔っ払いには逆らわないに、限るのだ。
「この間、頂いたんですけどね。とっても甘い、私の国では貴腐ワインと言うのですけれども。」
 ご存知ですか。
「わお、トカイじゃないか。こりゃあ、上物だよ」
 覚えたばかりの言葉を、舌に載せるのは、ちょっぴり気恥ずかしい。けれど、使ってみたいものなのだ。
 ラベルの文字に、消沈していた気持ちが少し、浮上する。
 甘い酒は、どちらかといえば好きな方だ。いいや、大好きだ。ビールは苦くて得意じゃない。ワインは渋みがどうにも馴染めない。日本酒は味を判断出来る程、飲んでいない(何せ、口喧しいお節介がいるもので)。他のアルコール類も、同じく。ウォトカなんてものは、チャッカマンなのだと日本が言って、アルコールランプの原料だとイギリスが言ったので、飲んだ事も無い。
 その点、トカイはこの間、フランスに薦められて飲んで以来、何かと口にする機会の多い酒だ。僕は喜んで、ご相伴に預かる意を表明した(今日くらいは、お爺ちゃんをたてておかないと、五体満足でこの家の敷居を跨ぐ事は出来ないだろうから、彼には一晩、大人しく従う事に決めた)。
 ぽん、と小気味良い音がして、部屋の中に甘く芳醇な香りが蔓延する。ああ、この匂いだ。うっとりと、湯飲みに注がれる(ここでなんで湯飲みなのかとか思ってはいけない)黄金の液体に熱視線を浴びせる。とくとく、と滴り落ちるような音が、何とも言えない。口の中が唾で一杯だ。
「早く、早く」
「そんなに焦らなくても、ちゃんとあげますよ。」
 わお、お爺ちゃん、笑顔が素敵だよ!!いつも、それくらい笑っていたら良いのに。
「はい、どうぞ。アルフレッド君」
「イタダキマス。」
 ちび、ごっくん。
「美味しいですか」
「もう一杯。」
「ちょっとお待ちなさい。私が飲んでからです」
 つ、ぐびり。
「菊?」
「ああ、美味い。」
 さあ、二杯目を注いで上げましょう。
 とくとくとく・・・。
 とくとくとくとくとく・・・。
「ああ、美味い。」
 重なった声に、どちらからともなく、くすりと笑う。
「ねえ、菊。」
「何ですか。」
 菊の背中越しに、ぽっかり、丸い月が見えた。翳って見えるのは、僕も酔ってきているからだろうか。いいや、違う。何と言ったっけ。ああいう、おぼろげな、霧の向こうにあるような、月の事。ずっと前、教えてもらった事がある。誰から?誰だろうか。
 僕はくらくらとしてきた頭で、とりあえず、笑っておいた。
「何でもないよ。」
 ぱちくり、目を瞬かせる菊は、ちょっと、子供っぽくておかしい。
「おかしな子ですねえ。」
 君に言われたくないよ。
「もう一杯。」
「またですか、」
「いいじゃんか、ケチ」
「ケチとは心外な!ならば、とっておきを出して差し上げましょう。」
 すっくと立ち上がった菊へ、僕は慌てて言葉を足した。
「それ、甘い?」
 まばたきを二回。
 ふんわり、トカイの香りと共に、微笑んで。
「極上の、一品ですよ」
 甘さを含んだ、笑みを一つ。
「だって、アーサーがくれましたから」
「いらない!!!」
 毒を孕ませた、後味を残して。
 
 


 
 
 
(暗転、10秒)

(照明、スポットで)
 



舞台袖、本田邸の濡れ縁に佇む菊。空を見上げて。

 
菊「ああ、ちっちゃい子をいじるのって、なんて面白い」
 

濡れ縁から眺める夜空には、朧月がのっそり、兎が餅をついている。
ああ、それにしても。
今夜は誰にも邪魔されない。性悪爺の独壇場。
↑菊の独白として台詞に変えても可。

 
菊「愉快愉快。」
 


ぺったん、こ。
かん!
 
 
 
 
 
 
 
 


20080717日米ネタ。というか、これでも日英前提の日とメリカ?

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