「においも残らない部屋の中」
鏡餅の上にのせていた、葉っぱつきのみかん。
気がついたら、腐っていた。
いいや、ちょっと、茶色になって痛み始めてる。でも、きっと、これの中身は腐ってる。
「どうした、」
珈琲を片手に、君が顔を出す。
「珈琲くさい」
「しゃあねえだろ、珈琲だもんよ、」
「みかん、」
指差し、君を見る。少し僕を見て、君は立ったまま、行儀悪く珈琲をすする。しかも、音を立てて。
「食っちまえば?」
「鏡餅が、裸になる」
「良いじゃねえか。裸」
ずず。
珈琲をすする音。それから、少し、沈黙。
君のマグカップからは黒い世界が消えて、君の左手にある僕のマグカップからは、湯気が消えた。
「ほれ、」
「わ、」
手の中に、生温いカップ。僕の、珈琲。ミルクと砂糖が混ざっていて、見た目は悪い。でも、甘い。
「ん、まだいけるぜ、これ。」
オレンジの皮のまま、一口。
いくら小さいみかんだからって、それはないと思う。一瞬だ。一瞬で、君の中へと消えてった。
「ひどい、」
「ひどくねえよ、」
そう言って、君は残った葉っぱを、鏡餅の上へそっと置く。
「・・・みすぼらしい」
「そうかあ?意外に、いけてんぜ?」
ずず。
一気にマグカップの中身を飲み干した。
20110104