「水精(みなもり)君(仮)その2」
これは夢だといっている。
何が。そう、自分。この自分。
まず頭から水の中に突っ込まれた。間違いない。水の味がした。次に引き揚げられて、かろうじて息が出来る程度の水位に浸され、ごしごしと身体を洗われた。痛いとか、痛くないとか、そんなものではなかった。皮膚なんてものは、きっとすべてがすりむけてしまっている。酷いことになっていそうだ。なぜなら、心なしか、身体全体がひりひりと痛むのだ。じんじんと染みるような痛みは、どうにも熱を持っているようで、魘された。覚えているのは泡。石鹸の匂い、消えていく、生臭い自分のにおい。獣臭いな、とどこかで声が響いている。それにほんの少し頷き返せば、再び、獣臭い。などと、今度ははっきりとした声が聞こえた。そして、またもや泡。石鹸の匂い、獣臭いと繰り返す声。やがて、ざぶんと頭のてっぺんまで水に押し込まれ、反射的に開いた瞼の外には、きらきらと光る泡、泡、泡。人間の掌が、自分をすくいあげたと思ったところで、今度は完全に意識を手放した。
これは夢だといっている。
何が。そう、誰かが。誰かが、そう。
これは夢だと、言っている。
これは、夢だと。
夢なのだと。
言ってる。
耳の奥で、しゅわしゅわと泡が爆ぜている。
流すなら、ちゃんと隅々までやってくれ。
「贅沢なやつめ、」
不遜な声音と共に、ざぶん。
水が、水に溶けてしまう。
ああ、これを夢だと言ってくれ。
PR