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カキチラシ

「サカサマ」ブログサイト内、書き散らしたもの置き場。

01/15

Wed

2025

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09/01

Mon

2008

亜細亜三兄弟(主ににーにと菊の不毛なる会話)その1

「さっさと散ってしまえばよいものを」
 
 
 
「私は貴方が嫌いです、兄さん。私は貴方がいない時に貴方を思い浮かべると冷静な言い分が出来ると言うのに、いざ、貴方を前にしてしまうと弱い所をぎゅっと握られたような、そうして足が竦み、まともに呂律も回らず、嫌にべたべたとした口調で、ろくに己の言いたい事が言えない。そんな情けない自分に後から死にたいくらいの嫌悪感と貴方への殺意に腹はよじれ、頭の中は燃え上がり脳髄が焼ききれそうになる。それくらい、憎く、大嫌いで、そんな自分はさっさと自殺してしまいたくなるのです。」
 私は貴方が嫌いだ、貴方が嫌いだ、嫌いなのだ、兄さん。
「貴方は自分でかまわないと、言っておいて、いざ、私が実際に行動すればその結果を、その行動を咎めたてる。ならば最初から、許しを与えねばよろしいものを!そんな貴方が嫌いです。なんて、馬鹿馬鹿しい。」
 最悪だ。
「貴方は操り人形が欲しいだけなのでしょう。何でも言う事を聞く、しかしながら傍から見ればそうではなく、適度に自立心を持ち、あくまで己が考えた故の行動とその対象の勘違いを期待する。しかしながら決してそれは貴方の掌の上という小さな世界以上に足を踏み出してはならない、暗黙のルールが存在する。そんな、お人形遊び。」
 私は貴方に振り回されるのは、もう、ごめんです。
「私は貴方の所有物ではない事を、いつになったら貴方はご理解して頂けるのですか。認知しろと喧しく毎日迫れば、して頂けるのですか。でしたら私は喜んで、そういたしましょう。私はもう、嫌なんですよ。良い子でいるのはもう、飽き飽きしているんです。いいえ、私の中で矛盾がもはや、取り返しのつかないところまで来ているんです。貴方は私の崩壊をお望みですか。きっと、そうなのでしょう。でもお生憎様。貴方の思い描く未来は訪れる事の無い寓話の世界。私が踏み潰して差し上げます。いい加減、目を覚まされてはいかがですか。このロクデナシめ!いつか後ろから刺してやる。いいや、この際、前からだってかまわない。貴方が私の手によって、地面に伏すのならば。ご存知でしたか。貴方の弟であるという事は、貴方の気性と似た部分を私も少なからず、備えているという可能性を。いいえ、これは可能性なのではありません。列記とした事実です。」
 東風が吹かずとも、目前の梅は絶大な芳香を漂わせる。立ち尽くし、なす術も無くその香りに包まれたのは遠い昔の話。今、私はいつだって、この視界を覆う梅を切り倒す事も燃やす事も出来る。
「それ程に、私は大きくなったのです。」
 いい加減、空の巣に夢を見るのはおやめ下さい。
「そこには、貴方が守るべき存在は、もうないのです。」
「ないのですよ。」
 ああ、兄さん。
「いつになったら、気付いてくれるのですか。」
 私は貴方の背後に、いつだって立っていたのだ。
 私はいつだって、貴方の背を見て、育ってきたのだ。
 私はいつだって、貴方の影を踏み、生きてきたのだ。
 私は貴方の心臓の位置を、いつだって、見つめていたのです。
「この、耐え難い激情を孕ませて。」
 鏡で己の顔を見て、笑ってしまいました。
「なんと、情けない顔。なんと、怖ろしい顔。」
 般若の面など、必要ありません。
「全ての負の感情は、この、拳の中に。」
 ああ、そう。お怪我をなされたと聞きました。心よりお見舞い申し上げます。
「そのお背中の傷に、似合いの梅の花を持参して、」
 貴方への最後の貢物です。
「どうぞ、お受け取り下さい。」
 弟である私の、最後の微笑と共に。
 おやすみなさい、兄さん。
 

 
 
 
20080819
病んでなくてこれがスタンダードな日→中。

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08/30

Sat

2008

残暑お見舞い申し上げます

 
 
「出産の過程を追っては喜び完成しては壊す楽しみつまりはそれが創作活動」
 
 
 






 
 
 本の中に、生きている。いいや、それでは語弊があるな。そうだ、そう!
「僕等は物語の中を、生きている。」
 不思議な不思議な僕らの世界。
 世界はいつでも僕らの味方で、僕らの家族で、僕らの体、僕らの心。
 世界は僕らのものであって、僕らの僕らによる僕らの為の巣箱(アジト)。
 最高だ。最高だ。
「そう、思わないか導師よ」
「そう、思いたいか同志よ」
「いけませんかね、」
「いいや、大変結構。」
「では、」
 この、素晴らしい世界に乾杯。
 
 
 
かち、ん。
 
 
 
 硝子の瞬く光に、はっと目が覚めた。
 夢を見ていた。
「まただ。」
 酷く寝汗をかいていた。拳は左胸の上。どくりどくりと脈立つ音は、毎日毎日、己へと重い楔を打ち込んでくる。疲労をとる事も叶わぬ睡眠は、近付く朝への彼岸の序曲だ。ごくりと飲み込む生唾は、苦味以外の何物でも無い。いつから、こうなったかは知らぬ。だが、確実に体力も精神力もすり減らされている己は、誰かに突付かれようものならいとも簡単に、奈落の底へと落ちるのだろうか。否、落ちるだろう。伸ばす腕すら持ち上げる事無く、ただ、黙って。静かに。それはそれは自然な落下は、音も無く世界を切り裂くだろう。そこにあったものが目を離した隙に無くなる、それ程の余裕すら与えられずに、さっさと、私はこの世界からこの身を消し去れるのだ。
「忘れられるのは辛く悲しい。」
 寂しさに襲われた胸は、少しばかり鼓動を鎮め、代わりに締め付けるような悲壮感に囚われた。
「どちらも、遠慮したいもの。」
 こんな気持ちになるのなら、いっそこの胸を貫いてみれば良いものを!
「生殺しとはこの事だ」
 ふふ、と小さな嘲りは、はたして誰に向けられたものなのか。
「知る人ぞ、今は無き。」
 ぐ、と夜着の胸元を握り込む。皺になる、と眉根を上げて嫌な顔一つ。瞼に映るはそんな、楽しくも無い顔をした世話役か。
「それは悪夢だ」
 ふふ、と今度は苦笑を零す。幾分か、息が楽になった気がした。そうだ、いいぞ。この調子だ。
「お前はいつも、そうだ。」
 不機嫌そうな、仏頂面。たまには笑顔の一つでも見せたらどうだと言いたくもなる。言えば言ったで、笑顔を見せる理由もありません、などと可愛げのない返事。笑顔を見せる事など、何の罰かと言わんばかりに歪む、世話役の顔。ああ、面白くもない楽しくも無い顔だ。ひ、と短く息を吸い込む。胸の痛みが届かぬ浅い場所で、軽く何度か呼吸をした。新しい世界のカケラが、体の一部に浸透する。匂いが、胸を和らげた。鮮やかな味が、食道を押し開く。その底に、口を開き待ち構える底なし沼。ずぶり、ずぶりと沈む足は、もはや踝までもが埋まってしまった。足の指先を少しでも動かすたびに、ずぶり、ずぶり。世界が沈む。視界は暗転。空は、どこだ。冷たくも熱くも無い泥土は、もはや泥土の感触すらも、与えはしない。ただ、沈むだけ。ただ、そこへとずぶずぶ。
「沈むだけ」
 脹脛、ああ、膝小僧。膝のお皿がのせ切れぬ食材に、ぱりんと割れる。がくりと関節が歪み、崩れた体勢を整えようと、無意識に腕が前へと伸びる。ずぶり。いっそう、体は泥の中へと沈み、太ももはその姿を世界から消してしまった。股、腰骨、骨盤がそこで初めて寒さに震えた。背骨がきしゃ、と音の無い悲鳴をあげた。だが、己にもどうする事も出来ぬのだ。待つ事すら叶わぬ恐怖、ただ現状を流し見るだけの屈辱、それすらも放棄し始める無気力な頭。臍は雷にとられ、右腕は捨て駒に。これだけはと左胸に爪をつき立て、心臓を抉りとる。ああ、助かったと頭上高くそれを掲げ、どくりどくりと息をつく心に、安堵をもらす。そうして肩までとられ、残すは首と頭の二つだけ。否、高く掲げる左腕と、心臓はすでに己が意識を切り離し、それは自身の物ではない。かつて、自身につながれていた自身を表す宝物。何処の者へと捧げる供物に摩り替えて、これだけはとなんと諦めの悪い事。
「これだけは、」
 これだけは、これだけは。これさえあれば、分かってくれる。必要ならば腕をやっても良い。首を捧げてやろう。頭もくれてやる。だがこれだけは。
「お前が繋いだ左腕、そうしてお前が取り上げたこの心臓。」
 それさえあれば、お前は私を私と分かってくれる。
「その、確証が、ある限り。」
 この心臓に、その証が刻まれている限り。生まれた時より知っていた。物心ついた時より知っていた。その温もりと、その眼差し。
「私は全てをなくしても、決して、消えはしないのだ。」
 ずぶり、ずぶ。
 と、ぷん。
 泥の沼。波紋を広げ、沈んでゆく。
「ずぶり、ずぶり、」
 
 
 
 
 
 
「新たな住人に、乾杯」
 
 
 
かち、ん。
 
 
 
 グラスのかち合う音に、はっとした。目が覚めたと認知したのはその刹那。冷や汗が額といわず体中に這いつくばっている。此処はどこだ、瞬時、辺りを見渡した。
「おはようございます、先生。」
 不機嫌な、仏頂面は見ているこちらまで機嫌が悪くなってくる。
「ああ、おはよう。水をくれ。体が乾いている」
 苛立った声でそう言えば、相手はじっとこちらを見つめ、動かない。
「どうした、」
「どうしたって、先生、貴方。」
「何だ。」
「乾くはずも無いでしょうに。」
「何だと、」
 全身、ずぶ濡れの癖に、一体、どこを泳いできたんです?
 ぽたり、ぽたり。
 前髪から滴り落ちる水の音。頭の先から足の裏まで、湿った感触に驚いた。一体、何事だ。
「まったく、どこを彷徨ってきたんですか。夢遊病も大概にしてください。」
「夢遊病なものか!!」
 勢いよく、布団から転がり出た。畳に足をつけ、前を見据える。じたり、全身が重かった。水の匂いに鼻腔がむずがる。水なのか。一体、何の匂いというのだ、これは。どこかでかいだ事のある、懐かしいような、それでいて二度と戻りたくは無い場所の匂い。あんな狭く息苦しいところ、絶対に嫌だ。分かりもしない癖に、どうしてかそう思う。
「何度同じ事を繰り返せばお気が済むんですか、先生。馬鹿な事はもうやめて、さっさと原稿を仕上げて下さい。もう何日ですか。さすがの私も、庇いきれませんよ。」
 ほら。目の前に差し出された真白い原稿用紙と万年筆に、くたりと腰が落ちる。その二つを見た途端、己の中にある何かが猛烈な勢いで破裂しそうな気がした。堪えられない。
「やれば、出来るじゃないですか。」
 畳に這いつくばるように、何もない紙の上を文字という世界で埋め尽くしていく。激流に呑まれた木の葉のように、なす術も無くひたすら、手を動かした。時折、ペンを握る指が間に合わず、頭の中の文字と紙上の文字とが行き違いを起こす。その度、かっとなる頭をぽん、と撫でる掌に、僅かながらも冷静さを取り戻す。しかしそれも、湧き上がる激情にはすぐに効果を喪失する。止まれば終わりだ。もう、この思いは二度と湧き上がってはこない。遠ざかりそうになるそれを、必死で捕まえ、精一杯の力で紡ぎ出す。待ってくれ、待つまいか。一方的な追いかけっこは、いつまで続く。
「全てを吐き出した後に、沸き起こる溜息が、満足というものなんだ」
「左様でございますか。」
 ぽん。
 撫ぜられる頭、再び、加熱する思い。
 思念が錯綜する己の脳裏は、沸点を振り切り、飽和状態へと移行する。これは不味い。これは不味いぞ。泡を押しつぶし、ぱちんと音が鳴りきる前に、書き終える。
「文字の中に、生きるものがある。」
「文字の中に。」
「文字と文字の合間に、存在する力がある」
「白紙の沼ですか」
「水溜りさ」
「薄汚れた、」
「そう、少しだけ。書き損じもあれば、手垢もある。真っ白の空間もあれば、何も無い。」
「左様でございますか。」
「そう、世界がそこにある。そこに息づくものがある。」
 ぽん。
「その源泉は、お前の手の下さ。」
「左様でございますか。」
 ぽん。
 
 
 
かち、り。
 
 
 
 壁掛け時計が、時を刻む。針を動かす原動力は、小さな歯車に、小さな螺子だ。螺子穴を覗けば、そこには幾多に広がり入り組む世界がある。歯車に乗り、また別の歯車へと飛び移り、時計盤の裏を駆け抜け、時々、鳩の棲家から顔を出す。覗いた世界はまた、何処かへと続く扉を掲げ、ドアノブに手を伸ばす前に鳩はそっと、頭を引っ込める。引きずり込まれた時計の家は、一瞬、暗闇となるけれど、耳を澄まさずとも矢継ぎ早に唸るカラクリに、次はいつ、頭を出そうかとしばしの思案にふける。
 
 
 
かち、ん。
 
 
 
 目玉が、ぎょろりと動く。差し込む光にペンが落ちた。インクの染みが、ピリオドを打つ。
「世界が終わった。」
 呟き、ごろりと体を伏した。空っぽになった空洞の、奥底から吹きぬける空気は溜息となる。畳の目に吹きつけた呼気は、冷たくも熱くも無い。それはまるで、あの泥の沼の如く、体をずぶずぶと畳の中へと引きずり込んだ。
 いつの間にか乾ききった全身は、覆われた夜着にすっぽり身を任せている。
 安堵。
 平安は今まさに、訪れんとしていた。
 行き着く先は、まさにここ。
 ぽん。
 撫でられた頭。その掌の、新鮮で、何と暖かい事。思わず、その正体にぞっとした。
「おい、何を持っている」
「何って貴方、」
「どうするつもりだ、それをかえせ!」
「嫌ですよ。だって、差し出したのは貴方でしょう、ね、先生。」
 どくり、どくり。
 高らかに、脈打つそれは、全ての始まり。
「さあ、続きをどうぞ。」
 この、生まれたばかりの素晴らしき世界に心の臓の杯で持って祝おうではないか。
乾杯。
 


 
 
 
 2008年8月サカサマ

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07/20

Sun

2008

 

 
 溢れ出て、迸る魂。ああ、ああ。止められない、止められない。しかし、駄目だ。まだ駄目だ。いけない。たとえこれ以上ないだろう明るい高まりは、その無邪気さゆえに、悲劇を伴う。外へ、前へ、出したいと願っても、それはごちゃごちゃとした気体であって、固体ではない。形としては、世に為す余裕はまだないのだ。それでも、出たい出したいと喘ぐ喜びは、いわば形骸にすぎない存在を、作り出そうとしている。それは私の意思に反する行いだ。形無き存在を、認めてはならぬ。決して、今は。


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07/20

Sun

2008

「大暑を耐暑するには対処方法を選ぶべきでアル。」
 
 
 

 
 
 
ミーン、ミンミンミンミンミン。
 
「ああ、今年も無事、夏休みに入ったのですねえ。」
 菊の声が、どこか虚ろに滲みながらも、すぐ隣から聞こえてくる。同時に、垣根の向こうに見える道路には、子供らの一群が元気に声をあげ、駆けて行く。そのすぐ後には、にぎやかな声がわんさかと重なり合う。恐らく、それらは先を行く、子供らの親なのだろう。
日傘が真白い光をちかりと弾く。子供らの焼けた肌が、太陽の光に輝いている。せめて帽子くらい、かぶっては同だろう。彼らの親は、日傘に帽子に手袋と、完全防備であるというのに。いや、しかし、子供らはあれくらい元気な方が良いとも思う。が、昨今の暑さに、少々、熱中症を心配してしまうけれども、それよりも、ガンガンに冷えた室内とギンギンに燃える外との温度差が与える小さな体への影響の方が、気になった。尤も、現在の自分達は人の事よりも、己が熱中症にならぬかという心配をすべきなのであろう。
何を我慢しているのか分からぬけれど、菊はちっとも冷房器具を使おうとしない。扇風機すら、この夏は埃をかぶらせたままなのだ。埃をかぶせたままである事が、彼に何をもたらすというのであろう。文明の利器は使ってこそ、その真価を発揮するというのに。それにしても、元気な子供たちである。まだ声が、聞こえてくる。
「何をじっと見てらっしゃるんですか。あんまり見てると、近頃の親はモンスターなので訴えられますよ」
 だらり、と温い音が、耳を爛れさせる。見ればこの家の主が、こちらを半眼で見上げていた。その半眼をのっけた顔こそ、怪物であろうに。
 そもそも、怪物などと、自国民に対してよくもそんな言葉を使えるものだ。国として、それは良くないと、年長者である我は誰に憚る事無く年少者へと諭す立場でにあるけれど、あまりの暑さに何もかもがどうでも良くなってくる。それに所詮は他所の国の事だ。我がいちいち、ご丁寧に注意してやる必要はない。相手はもはや、人で言うならば十分に大人である。そうだ、そうだ。しかし今はそんな事、どうだって良い。何せ暑い。そうだ、それにもう、こいつは我の弟でも何でもない男だし。そうだそうだ、こいつとは別段、家が近いだけの関係だ。家族でも何でもない。いや、でも本当はどこかでそうあって欲しい、と願っている自分がいたりいなかったり、否、そうであって欲しいと誰かから思われていたり思われていなかったり。いいや、それは幻聴だ。暑さが呼び込んだ、夏の魔物だ。我は耳が良いので、そんな幻さえも拾えてしまうのだ。そうだ。昔の記憶に、振り回されているわけではない。これは幻聴だ。不必要な、もの。
とにかく、今は暑い。
それだけが悶々と、頭の中を支配して、もはや何が何だか分からない。暑い。暑いのだ。そうだ、暑いのが全て悪い。気のせいか、心臓の音が耳の奥底で渦巻いていて、外界の音がよく聞き取れない。したがって、隣の男の声も、よく判別できていなかったりそうでなかったり。己の声だけが、ぐるぐると我の体を血を供につけ、廻り廻っている。
「いや、お前にも、あんな時期があったなあ、とか。」
「あったんですよー、私にも。」
 菊はだらしなく胸元をはだけている。盛大に、暑いと顔に書いてある彼の額には、冷えピタ(便利な物が、あるものだ)がしっかと貼り付けてあり、首にはアイスノン(これもとっても便利だと思う)を手ぬぐいで包んで巻き、足元は盥に氷水(ここはさすがに昔ながらの方法か)だ。勿論、手には団扇だが、そこから発生する風は、ないよりマシと言った程度で否、むしろそんなに生温い風なら、ない方が良い。
「可愛かったねえ」
「可愛かったですかあ」
 ああ、なんてやる気のないおざなりな返事!夏の魔物は男から、一体どれだけの覇気を吸い取っていけば気が済むのであろう。
「そりゃあ、もう。金銀瑠璃なんか、目じゃなかったよ」
「そうですか。時に中国さん、一つ、よろしいですか」
 男は今度は薄い笑みを浮かべて、焦点の合ってない黒い瞳を我に向けてこう言った。
「大事なアイデンティティー、忘れてるアルよ。」
 ミーン、ミンミンミンミンミン。
 
 夏の魔物よ、全てを溶かしてゼロに戻して下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
20080720
いわゆる、ご近所付き合いな日と中。

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07/17

Thu

2008

日米?ネタその1

 

~本田菊劇場その1~
「孫遊びがしたい、お年頃なんです(吐息)。」




 
 
 
 
 すなわち、私、本田菊はとてもとても遺憾であると。そう、言いたいのです。
「分かりますか、アルフレッド君。」
「分かりません、菊先生。」
「そうですか、独立前からやり直してください」
「さらりと死亡フラグ、立てないで下さい」
「きちんと理解もしていないくせに、フラグ、なんて専門用語を使わないように、不愉快です私。」
「菊先生、僕、恐いです。」
「君が」
「いいえ、君が。」
 だん、といっそ、高らかに音を立ててくれれば良いものを、目前の彼は常と変わらぬ穏やかな、その顔を見慣れたものには無表情ともいえる平静さで、手の中のグラスを丁寧に、それはそれは繊細な動作でコースターの上へと置いた。きっちり、コースターの中心に合わせてくるものだから、本当にこの人は、その脇におかれた酒瓶数本全てをほぼ一人で飲み干した人だろうか、と冷や汗が額に滲む。
 彼が、ここまでの大酒飲みとは知らなかったので、正直、もはや自分がこれからどう行動したら(生きて帰れるのか)良いのか、それ以前にどうなるのか(明日の太陽を拝む事が出来るんだろうか)が皆目検討もつかず、何と言うか、心底、肝が冷え切ってしまい(誰でも良いから、助けてくれないかしら)、酔える余裕など、どこにもありはしない(もうこの際、アーサーでも良いから!!いいや、ロシア野郎だってかまわない!!!)。悲しいかな、現実逃避すら許してはくれない雰囲気が、僕と彼の間には漂い、僕ははっきり言って、別の意味では盛大に酔えそうだなと、遠く、天井の木目を見つめる。
 彼は次々、運ばれてくる酒を、黙々とあけていく。年寄りの一人暮らしですよ、と言っていたこの家で、誰がここまで酒を運んでくるのか分からないけれど(そういう意味では、彼の家はある意味、イギリスの家をしのぐ不気味さがある、口に出しては言えないけれど)
確実に、彼の傍らには空瓶が続々と、増えていっている。
 なぜこうなってしまったのか、思い出すのも億劫だ。今はとにかく、早く時が過ぎていってくれる事ばかりを考えている自分が、不思議でたまらない。どうにも、日本国としてではない、個人的な知人である本田菊、という存在と対峙する時は、調子がくるって仕方ない。こういう時、無駄に彼の事をお爺ちゃんだなあ、と感じてしまうのは、それこそ口が裂けてもいえない事だ(少なくとも、イギリスやフランスに対してはおっさんだな、と思う事はあっても、お爺ちゃんだな、と思った事は一度も無い)。
「アルフレッド君、甘い酒はお嫌いですか。」
 突然の改まった声による呼びかけに、知らずびくりと背筋が伸びて、この前、教えてもらったばかりの正座を崩す事が出来ないでいる足に、激痛が走った。ああ、こういうのを、足がしびれたって言うんだ。足の裏が、ぱんぱんに腫れているような、熱で浮いているような、自分の足ではない変な感覚がする。座布団を敷いてはいるけれど、そんなもの、あってもさして、意味を成さなくなってきている。菊は相変わらずきっちりと、美しい姿勢で正座をしているし、まったく、日本人の足は一体、どうなっているのだろうか。
「お嫌いですか、」
 再度の問いかけに、はっとなって、慌てて答えを吐き出した。
「いいえ、好きです。」
 瞬間、喜色満面、心なしか彼の纏う空気そのものすらが、桃色に変化したような気がした。
「それでは、これなんか、いかがですか。」
 さっきまで遺憾だ何だと言っていた御仁は一転して、爽やかな微笑を浮かべて一本のワインボトルを差し出す。相変わらず頬には朱色一つささないけれど、うん、間違いなく彼は、酔っている。そうして、酔っ払いには逆らわないに、限るのだ。
「この間、頂いたんですけどね。とっても甘い、私の国では貴腐ワインと言うのですけれども。」
 ご存知ですか。
「わお、トカイじゃないか。こりゃあ、上物だよ」
 覚えたばかりの言葉を、舌に載せるのは、ちょっぴり気恥ずかしい。けれど、使ってみたいものなのだ。
 ラベルの文字に、消沈していた気持ちが少し、浮上する。
 甘い酒は、どちらかといえば好きな方だ。いいや、大好きだ。ビールは苦くて得意じゃない。ワインは渋みがどうにも馴染めない。日本酒は味を判断出来る程、飲んでいない(何せ、口喧しいお節介がいるもので)。他のアルコール類も、同じく。ウォトカなんてものは、チャッカマンなのだと日本が言って、アルコールランプの原料だとイギリスが言ったので、飲んだ事も無い。
 その点、トカイはこの間、フランスに薦められて飲んで以来、何かと口にする機会の多い酒だ。僕は喜んで、ご相伴に預かる意を表明した(今日くらいは、お爺ちゃんをたてておかないと、五体満足でこの家の敷居を跨ぐ事は出来ないだろうから、彼には一晩、大人しく従う事に決めた)。
 ぽん、と小気味良い音がして、部屋の中に甘く芳醇な香りが蔓延する。ああ、この匂いだ。うっとりと、湯飲みに注がれる(ここでなんで湯飲みなのかとか思ってはいけない)黄金の液体に熱視線を浴びせる。とくとく、と滴り落ちるような音が、何とも言えない。口の中が唾で一杯だ。
「早く、早く」
「そんなに焦らなくても、ちゃんとあげますよ。」
 わお、お爺ちゃん、笑顔が素敵だよ!!いつも、それくらい笑っていたら良いのに。
「はい、どうぞ。アルフレッド君」
「イタダキマス。」
 ちび、ごっくん。
「美味しいですか」
「もう一杯。」
「ちょっとお待ちなさい。私が飲んでからです」
 つ、ぐびり。
「菊?」
「ああ、美味い。」
 さあ、二杯目を注いで上げましょう。
 とくとくとく・・・。
 とくとくとくとくとく・・・。
「ああ、美味い。」
 重なった声に、どちらからともなく、くすりと笑う。
「ねえ、菊。」
「何ですか。」
 菊の背中越しに、ぽっかり、丸い月が見えた。翳って見えるのは、僕も酔ってきているからだろうか。いいや、違う。何と言ったっけ。ああいう、おぼろげな、霧の向こうにあるような、月の事。ずっと前、教えてもらった事がある。誰から?誰だろうか。
 僕はくらくらとしてきた頭で、とりあえず、笑っておいた。
「何でもないよ。」
 ぱちくり、目を瞬かせる菊は、ちょっと、子供っぽくておかしい。
「おかしな子ですねえ。」
 君に言われたくないよ。
「もう一杯。」
「またですか、」
「いいじゃんか、ケチ」
「ケチとは心外な!ならば、とっておきを出して差し上げましょう。」
 すっくと立ち上がった菊へ、僕は慌てて言葉を足した。
「それ、甘い?」
 まばたきを二回。
 ふんわり、トカイの香りと共に、微笑んで。
「極上の、一品ですよ」
 甘さを含んだ、笑みを一つ。
「だって、アーサーがくれましたから」
「いらない!!!」
 毒を孕ませた、後味を残して。
 
 


 
 
 
(暗転、10秒)

(照明、スポットで)
 



舞台袖、本田邸の濡れ縁に佇む菊。空を見上げて。

 
菊「ああ、ちっちゃい子をいじるのって、なんて面白い」
 

濡れ縁から眺める夜空には、朧月がのっそり、兎が餅をついている。
ああ、それにしても。
今夜は誰にも邪魔されない。性悪爺の独壇場。
↑菊の独白として台詞に変えても可。

 
菊「愉快愉快。」
 


ぺったん、こ。
かん!
 
 
 
 
 
 
 
 


20080717日米ネタ。というか、これでも日英前提の日とメリカ?

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