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カキチラシ

「サカサマ」ブログサイト内、書き散らしたもの置き場。

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07/20

Sun

2008

「大暑を耐暑するには対処方法を選ぶべきでアル。」
 
 
 

 
 
 
ミーン、ミンミンミンミンミン。
 
「ああ、今年も無事、夏休みに入ったのですねえ。」
 菊の声が、どこか虚ろに滲みながらも、すぐ隣から聞こえてくる。同時に、垣根の向こうに見える道路には、子供らの一群が元気に声をあげ、駆けて行く。そのすぐ後には、にぎやかな声がわんさかと重なり合う。恐らく、それらは先を行く、子供らの親なのだろう。
日傘が真白い光をちかりと弾く。子供らの焼けた肌が、太陽の光に輝いている。せめて帽子くらい、かぶっては同だろう。彼らの親は、日傘に帽子に手袋と、完全防備であるというのに。いや、しかし、子供らはあれくらい元気な方が良いとも思う。が、昨今の暑さに、少々、熱中症を心配してしまうけれども、それよりも、ガンガンに冷えた室内とギンギンに燃える外との温度差が与える小さな体への影響の方が、気になった。尤も、現在の自分達は人の事よりも、己が熱中症にならぬかという心配をすべきなのであろう。
何を我慢しているのか分からぬけれど、菊はちっとも冷房器具を使おうとしない。扇風機すら、この夏は埃をかぶらせたままなのだ。埃をかぶせたままである事が、彼に何をもたらすというのであろう。文明の利器は使ってこそ、その真価を発揮するというのに。それにしても、元気な子供たちである。まだ声が、聞こえてくる。
「何をじっと見てらっしゃるんですか。あんまり見てると、近頃の親はモンスターなので訴えられますよ」
 だらり、と温い音が、耳を爛れさせる。見ればこの家の主が、こちらを半眼で見上げていた。その半眼をのっけた顔こそ、怪物であろうに。
 そもそも、怪物などと、自国民に対してよくもそんな言葉を使えるものだ。国として、それは良くないと、年長者である我は誰に憚る事無く年少者へと諭す立場でにあるけれど、あまりの暑さに何もかもがどうでも良くなってくる。それに所詮は他所の国の事だ。我がいちいち、ご丁寧に注意してやる必要はない。相手はもはや、人で言うならば十分に大人である。そうだ、そうだ。しかし今はそんな事、どうだって良い。何せ暑い。そうだ、それにもう、こいつは我の弟でも何でもない男だし。そうだそうだ、こいつとは別段、家が近いだけの関係だ。家族でも何でもない。いや、でも本当はどこかでそうあって欲しい、と願っている自分がいたりいなかったり、否、そうであって欲しいと誰かから思われていたり思われていなかったり。いいや、それは幻聴だ。暑さが呼び込んだ、夏の魔物だ。我は耳が良いので、そんな幻さえも拾えてしまうのだ。そうだ。昔の記憶に、振り回されているわけではない。これは幻聴だ。不必要な、もの。
とにかく、今は暑い。
それだけが悶々と、頭の中を支配して、もはや何が何だか分からない。暑い。暑いのだ。そうだ、暑いのが全て悪い。気のせいか、心臓の音が耳の奥底で渦巻いていて、外界の音がよく聞き取れない。したがって、隣の男の声も、よく判別できていなかったりそうでなかったり。己の声だけが、ぐるぐると我の体を血を供につけ、廻り廻っている。
「いや、お前にも、あんな時期があったなあ、とか。」
「あったんですよー、私にも。」
 菊はだらしなく胸元をはだけている。盛大に、暑いと顔に書いてある彼の額には、冷えピタ(便利な物が、あるものだ)がしっかと貼り付けてあり、首にはアイスノン(これもとっても便利だと思う)を手ぬぐいで包んで巻き、足元は盥に氷水(ここはさすがに昔ながらの方法か)だ。勿論、手には団扇だが、そこから発生する風は、ないよりマシと言った程度で否、むしろそんなに生温い風なら、ない方が良い。
「可愛かったねえ」
「可愛かったですかあ」
 ああ、なんてやる気のないおざなりな返事!夏の魔物は男から、一体どれだけの覇気を吸い取っていけば気が済むのであろう。
「そりゃあ、もう。金銀瑠璃なんか、目じゃなかったよ」
「そうですか。時に中国さん、一つ、よろしいですか」
 男は今度は薄い笑みを浮かべて、焦点の合ってない黒い瞳を我に向けてこう言った。
「大事なアイデンティティー、忘れてるアルよ。」
 ミーン、ミンミンミンミンミン。
 
 夏の魔物よ、全てを溶かしてゼロに戻して下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
20080720
いわゆる、ご近所付き合いな日と中。

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