「白い夢」
夢を見ている。
コンクリートの道路、見上げる団栗の木、重なり合う葉っぱ。その間から見え隠れする、まん丸お月様。
ああ、夢を見ている。これは、夢だ。なぜなら月はもはや、この世に存在しない。
愚かなる月ウサギのふざけた餅つき大会の末、あの美しく可憐で儚い月は、見事に割れてしまった。故に、僕らはまん丸お月様を心の中から奪われて、今では見上げれば真っ暗闇に赤く燃える半円と、申し訳程度に残った瓦礫の金色が、きらきらと華やかに散っている。それから幾日もたたないうちに、心を奪われてしまった僕らは一人、また一人と顔がなくなってしまった。一人、また一人。
「今日もなくなったやつがいたらしいぜ」
「明日もなくした人がいるらしいわ」
「明後日も散ってしまったらしいよ」
「明々後日も」
「その次も」
「その次も、」
「その先も・・・・!!!」
気がつけば僕だけがなくならない顔を持ち、こうして半分と欠片になってしまったお月様を監視している。
僕らは監視者であるというのに、その対象をうばわれてしまった。
なくしたものは、もう僕らの手には戻らない。
残らない思いを心からも消失させた、憎き月ウサギたちを僕は如何してやったらよいのだろうか。この頃、そんなことばかり考える。
仕方ないので、とりあえず、丸い皿でも飾っておこう。
20081114
PR