「鬼が笑った」
梅の花が、好きだ。
菊はそう言う。
梅はね、
と、菊。
梅の花は、いじらしいから好きなんです。私はここよ、と己の存在を主張する。
そのくせ、それは密やかに、黙って。気付かれないように、声を発する。
じ、とこちらを見つめる瞳は黒い。あ、星が。
いじらしい。
星が、散っているよ、菊。
だから、可愛い。
睫毛に雫が、落ちているよ、菊。
だから、いとおしい。
はらはら、と。
ほろほろ、と。
だから、私は梅の花が好きなんです。それにね、
菊は瞬きを一つ。
ほつり、と涙が。
梅は、飛ぶんです。さみしい。いとしいと。主人のもとへ、飛んできてくれる。本当にいじらしいったら、貴方。
伏せた眼差しを、そっとあげて。唇の端を、緩めてほほ笑みをひとつ。
大輪の薔薇には見劣りいたしますがね。
目を細めて、菊。私を見ないでくれないか。
「恥ずかしい、」
「何がです、ミスター」
「名を、呼んでは頂けませんか」
「カークランド卿、」
「名を、呼んでは頂けませんか!」
「イギリスさん、私はね。梅の花が、好きなんですよ。」
さらり、と前髪が指先で遊ばれる。間近で見る菊の手。
「生命線が、長い」
「毎年、蕎麦を食べていますから」
額の中心がチリ、と痛んだ。何だか、くすぐったい。
「恥ずかしいですか」
「君が、」
「ふむ、結構」
腕を組み、にやりと嘲笑。ああ、菊の花は。
「ひそやかに、浸透してゆく」
しんしんと、しんしんと。
「大地をおかしてゆく」
「確実に」
紡がれた言葉の力強さ。
「痺れるね、」
「大変、結構です。アーサー」
癖になる。
まるで、
「芥子の花、」
唇が、赤い。赤い、赤い、花。
「そう、兄さんに似合いの花。でも、貴方。」
菊の指が、額を突く。とん、と軽やかに。ずん、と胸に、響いた。
「あれは、頂けない。あれは、何とも不粋な代物。あれは、ひどく、許しがたい。」
黒い瞳が、私を貫く。
「許しがたい、ですよ。イギリスさん」
大事なことなので、二度、言いました。
ふわり。
綻ぶような、ほほ笑み一つ。
ああ。
「菊の花が、咲いた」
「高いですよ、菊花の香りは」
何ともこれは。
「癖になる」
20090203
菊アサと見せ掛けて、にーに総受
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