「我が愛し子よ、その色を我に示せ」
我は血、に負けたのだ。
そうだと確信した途端、四肢から力が抜け落ちた。へたりと膝が地につき、頭の中が真っ白になる。
目の前が一気に狭く、ぼんやりとした。だらしなく目と口が開き切り、それでもしがみつかんとばかりに
顎は仰け反り、天をつく。いや、天をつかれたのは紛れもないこの自分。大切にしてきた世界に、穴を
開けられたのはこの自分。知らず、笑い声が落ち葉を踏むように空間に散る。
ああ、我は負けた。
血に負けたのだ。
たかが、この身に流れるだけの血に、何の力ももたぬ液体だと思っていた赤き鮮血に、大敗をきっした
のだ。
なぜ。
どうして。
涙すら流れない。
気色の悪い脂汗ばかりが額に吹き出る。
手先は痺れはじめ、上向く首にも痛みが走る。痙攣している。そう、臓器をはじめ筋肉、体を構成する
すべてが痙攣している。
血、という悪夢に痙攣していた。
たかが血の一滴。
「っ畜生、」
言葉をかわきりに体を満たすあらゆる水分が、穴から流れ出る。吹き出す、溢れだす!
「・・・ちくしょう」
負けたのだ。どうすれば勝てる。もはやなくしたものを取り返すには遅すぎる。ならばどうすれば勝てる。
どうすれば勝てる。どうすれば負けずにすむ!どうすればこの屈辱を、晴らす事が出来るのだ!
「ちくしょう!!」
血が泣いていた。
涙はすでに、枯れはてた。
それは錆の日。
2009年1月8日
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