「足」
足があるいている。
足が空(くう)をあるいてくる。
足の爪には紅がひかれている。
彼女は足か。
否、先頃は男も紅くらい、ひくときいた。
ならばこれは彼なのか。
なんと珍妙な。
なんと奇怪(きっかい)な。
足はクルリと私の前で回れ右。
おい、ちょっとまて。
まだ話は終わっていない。不躾に見ていたことはお詫びする。
平身低頭、この通り。
世界に頭を下げてでも。
頼むから。
私に足を、くれないか。
なあ、おまえ。
どんな足でもかまわない。
悪癖持ちだって、かまわない。
代わりにこの目を一つ、おまえに捧げる。捧げるから!
私に足を、紅の通う足を、くれないか。
私の片目は青色だから、世界は美しく見えるのだ。
私の片目は真っ黒だから、世界は静かに寄り添うのだ。
おまえの好きな方を、選んでくれ。
二つは駄目だ。一つだけ。
指が欠けていても良い。
私はおまえの足が欲しい。
おまえの足は長く、長く。
歩く力をもっている。
現にほら、おまえ。
私の前まであるいてきたじゃあないか。
ついでの駄賃だ、私を拾っていってはくれないか。
楽しくやって、いこうじゃないか。
空を歩くのは、しまいにしよう。
地を歩くのだ。
暖かく、冷たい地面を足でふみつけて。
ふみつけて。
踏みしめるのだ。
きっと、愉快なんだ。
きっと、晴れ晴れとする。
どうだ。
一つ、私といかないか。
私には足が、必要なのだ。そうだろう。
私が歩いてやる。
私に歩かせてくれ。
私に。
足(せかい)を、くれ。
20090128
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